東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2922号 判決
当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は、原判決の理由を次のとおり訂正し、削除し及びこれに附加するほかは、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。
一 原判決一二枚目表七行目ないし九行目の「甲第一号証(本件公報)の図面の記載及び本件登録意匠が時計文字盤に係るものであることを総合すれば」を削り、右部分に「乙第三号証(本件意匠登録願)によれば」を挿入する。
二 同一二枚目裏八行目の「六分の一」を「七分の一」と訂正する。
三 同一三枚目表九行目から同裏一〇行目までを削り、右部分に、以下本項末尾までのとおり挿入する。
意匠法第二四条は、「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。」と規定しているところ、本件願書(乙第三号証)の「意匠に係る物品の説明」欄には、「本件の文字盤は時計の組立てに際して図の一二個の円形凹所へ硬貨その他の画像表示板を嵌め込むようになつている。」と記載されていること、しかし「意匠の説明」欄には「左側面図は右側面図と同一であり、底面図は平面図と同一であるから省略する。」とのみ記載され、硬貨等についての記載は存しないことを認めることができる。しかして、意匠法施行規則第一条によれば、願書は様式第一に従つて作成されることとされており、様式第一備考一七(当時)は、『別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは、「意匠に係る物品の説明」の欄にその物品の使用の目的、使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。』となつている。本件出願の意匠に係る物品は時計文字盤であつて(乙第三号証)、時計文字盤は意匠法施行規則別表第一の下欄に掲げる物品の区分に属する物品(三七時計の中)であることは明らかであるから、前記備考一七の趣旨からすれば、本件出願に際しては、右「意匠に係る物品の説明」欄の記載は不要だつたのである。ところで控訴人は、本件願書中「意匠に係る物品の説明」欄に右のような記載があることは、内容的にはそれは意匠の説明なのであり、その証左として本件意匠公報中では、「意匠に係る物品の説明」は不要であるとして、「説明」すなわち「意匠」の説明のみを掲記し、「本物品は時計の組立に際して図の一二個の円形凹所へ硬貨その他の画像表示板を嵌め込むようになつている。左側面図は右側面図と、底面図は平面図と同一にあらわれる」と記載されたものであると主張する。
成立に争いのない甲第一号証によれば、本件意匠公報中「説明」欄に右記載があることが認められる。しかしながら、登録意匠の範囲は意匠公報の記載に基づいて定められるのではなくて、願書の記載及び願書に添付した図面の記載等に基づいて定められるものであることは前掲意匠法第二四条の規定によつて明らかであり、本件願書中「意匠の説明」欄には「左側面図は右側面図と同一であり、底面図は平面図と同一であるから省略する。」とのみ記載され、硬貨等についての記載は存しないことは前認定のとおりであるから、願書の「意匠に係る物品の説明」欄、さらに本件意匠公報中に、前認定のような各記載があつても、右記載は本件登録意匠を内容的に説明したものであるとすることはできない。原告の主張は理由がない。しかして、本件願書及び添付図面には他に円形凹所に硬貨その他の画像表示板をはめ込んだものである旨の記載はないから、原告の、本件登録意匠は時計文字盤の円形凹所に相応の大きさの硬貨その他の画像表示板をはめ込んだ状態のものであるとの原告の主張も結局理由がない。
四 原判決一四枚目表七行目の「平板二板」を「平板二枚」と訂正する。
五 同一五枚目裏九行目の「しかしながら、」以下同一六枚目表六行目までを削り、右部分に、以下本項末尾までのとおり附加する。
しかしながら、成立について争いのない乙第一号証の一、二によれば、時刻を表示する数字の代わりに一二個の凹所を環状に配置し、右凹所に硬貨等を装飾的にはめ込んだ時計文字盤の意匠は、本件出願前既に公知であつたことを認めることができ、また時刻を表示すべき位置が一二個であることは時計文字盤の性質上極めてありふれたものであるから、本件登録意匠の要部は右一二個の円形凹所を有するという点だけにあるのではなく、右円形凹所と、文字盤の中央小円孔外周の歯車形の模様、及び右歯車形模様から前記円形凹所の中心に向けてその外周附近まで放射状に延びる一二組の平行線模様との組合わせにあるものと認むべきである。
控訴人は、乙第一号証の時計文字盤上の硬貨の配列は大小・間隔すべてが不揃いであり、本件登録意匠の整然たる大小一二個の等間隔円周配列とは美観を異にしており乙第一号証を引用する意味はないと主張するが、右乙号証の時計文字盤上の硬貨の配列が原告主張のように不揃いであるとは認められない。
控訴人は、さらに、本件登録意匠は、正方形の輪郭の文字盤に一二個の円形凹所が設けてあるから、前者の正方形が後者の円形を特徴的に際立たせるのに対して、右乙号証のような輪郭円形の文字盤に円形の時刻表示部では、後者の円形は目立たないとの趣旨の主張をするが、正方形の輪郭を有する時計文字盤の形状がありふれたものであることは前認定(原判決の理由)のとおりであるから、結局円形凹所が本件登録意匠の要部であるということを主張しようとする控訴人の主張も理由がないことになる。
控訴人はまた、被控訴人はイ号製品、ロ号製品を「三越オリジナル」として宣伝し、時計文字盤の円形凹所に硬貨をはめ込んだ意匠を新規なものと認めていると主張するが、「三越オリジナル」が控訴人主張のような意味をもつかどうかには疑問があり、仮りにそうであるとしても、そのことから、本件登録意匠においては一二個の円形凹所のみがその要部であるということにはならない。
控訴人は、さらに、本件登録意匠の中心部の歯車形の表示は、本件登録意匠に係る物品が時計文字盤であることから、時計の指針によつて塞がれる性質のものであり、また、右歯車模様から円形凹所の中心に向けてその外周付近まで放射状に延びる一二組の平行線は指針の補助的なものとして時計文字盤としてはありふれた発想であり、時計の針により目立たなくなる存在であるから意匠としての意味に乏しいと主張する。
しかしながら、本件登録意匠に係る物品は時計文字盤であり、それも一二個の円形凹所に硬貨その他の画像表示板をはめ込む以前の文字盤であつて、時計の素材としてそれ自体独立して取引の対象となることを予定されているものであるから、時計の組立ての最終において、前記歯車模様が指針によつて仮に見えなくなるようになることがあつても、そのことから右模様が登録意匠としては意味がないものということはできず、また一二組の平行線が仮にありふれたものであるとしても(本件においてはその立証はないが)本件登録意匠のような意匠において、右平行線が、歯車模様及び一二個の円形凹所との組合せにより、充分意味をもち、その要部を構成することがあり得、本件登録意匠もまたそのように認定すべきものと考えられるから、控訴人の前記主張も理由がない。
右のとおりであり、本件登録意匠の要部は、前記のとおり、文字盤上の一二個の円形凹所と、中央小円孔外周の歯車形の模様、及び右歯車形模様から前記円形凹所の中心に向けてその外周附近まで放射状に延びる一二組の平行線模様との組合せにあるから、右のような歯車形の模様及び一二組の平行線模様を欠くイ号意匠及びロ号意匠は、本件登録意匠とのその他の相違点について検討するまでもなく、本件登録意匠の権利範囲に属しないものといわなければならない。
六 以上のとおりであつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却する。